2019年10月28日月曜日

クリーンな「汚れた英雄」

汚れた英雄
1982年 日本
監督:角川春樹
主演:草刈正雄

北海道テレビ放送「水曜どうでしょう」原付東日本企画で、大泉洋が「『汚れた英雄』かけてみたらカッコよかった」などと叫んでいた、あのバイクレース映画。
riding high riding high you are the lonely rider i know♪

若き日の草刈正雄が主演。官能的ともいえる引き締まった肉体美を存分に堪能できる。草刈正雄の熱狂的マニアの需要は満たすことができるだろう。またレースシーンの迫力は本作の見どころでもある。が、それだけ。

問題は、誰も汚れていないこと。強いて言えば、3人ぐらいの女と関係を持っていることだろうか。主人公はセレブの女にレース資金を出させているジゴロだ。それを「汚れた」と形容するのは無理があろう。むしろ女に金を出させるとは、優れた資金調達力と言える。というかウラヤマシイ。

ライバルチームのメカニックを買収する、レギュレーションを都合よく変えてしまう、美人局を仕掛けるなど、いくらでも陰謀は考えられる。原作にあったかも知れないその「汚れた」部分を割り切ってカットしたのかもしれない。が、全体としては全く中身のない映画に相成った。主人公に絶望も葛藤も成長もない。脇役も魅力がない。ストーリーも凡庸そのもの、いやストーリーが無いに等しい。具のない鍋料理のようだ。

そこかしこにバブルの香りが濃密に残る、いわば高度成長期を代表する歴史資料映画。後世に残すべき意義は大いにある。しかし、うれしーがこの映画を評するなら「止っているようだもの」だろう。

2019年10月20日日曜日

ザ・ロブスターが描くディストピア

ザ・ロブスター
2015年 ギリシャ・フランス・アイルランド・オランダ・イギリス合作
主演:コリン・ファレル
監督:ヨルゴス・ランティモス



禁独身社会VSリア充追放ゲリラの壮絶な争い、というのは煽りすぎか。

パートナーと別れてしまった人は「ねるとん的リゾートホテル」へ。ここで45日以内にパートナーを見つけられないと動物に変えられてしまう。どんな動物になりたいかは申告可能。「狩り」で森に潜む独身者を捕獲すれば1日延長。徹底した思想は人間を生産性で語るどこかの国の政治家に通じるものがある。

主人公の男は奥さんに逃げられてこのホテルに収容される。

「私はロブスターになりたい」

海底で100年以上ひっそりと生きられるというのが理由。この地味な男を演じるのは、ゴールデングローブ賞受賞のコリン・ファレル。下っ腹の膨らんだ姿は堪らなく物悲しい。

このホテルは、いわば「性的全体主義ホテル」。異性への興味を維持するためのあるレギュレーション(破るとんでもない罰が!)。独り身の悲劇を叩き込まれる寸劇。この狂気じみた描写が、間の悪いコントのように延々と続く。不吉なヴァイオリンの調べが笑いたい衝動を打ち消す。

「こんな世界はいやだ!」

逃げ出してみると、森に潜んでいるゲリラに迎えられる。独り者でも気兼ねなく過ごせるはずが、皮肉なことに主人公の男はここである女性と仲良くなってしまう。恐ろしい制裁が彼らを待ち受けていた・・・




大きな軸としてイデオロギーの違い、あるいは異端の排除というのがこの映画で描かれている。が、そんな堅苦しいものではなく、これはコメディだろう。しかし笑えない!でも純愛についても考えてしまう。そんな倒錯した時間を過ごしたい方にこそお勧めしたい。