2019年11月25日月曜日

恐怖の地下鉄映画「ある戦慄」

ある戦慄
1967年 アメリカ
監督:ラリー・ピアーズ
主演:トニー・ムサンテ マーティン・シーン


1960年代の深夜のニューヨークの地下鉄が舞台。たまたま乗り合わせた乗客たちの地獄を描く異色の映画。

前半は乗客の背景を丁寧に描写する。3歳くらいの眠りこけた娘を抱えた白人の夫婦はタクシー代をケチって地下鉄に。黒人の夫婦は改札で駅員と一悶着起こして旦那が憤慨。「いつまでも白人のナメられてたまるか!」アル中から立ち直ろうとするオッサン。その男にヒトメボレしたゲイの若い男が後ろからついてこっそり乗車する。年の差カップルは若妻が爺さんを尻に敷いている。子どもに金を無心して断られた老夫婦。「育ててやったのに恩知らずめが!」イチャついているカップル。若くて純情そうな休暇中の軍人2人組。そして座席で眠りこけている酔っ払い。

そこに乗ってくるギャング2人組。吊り革にぶら下がったり暴れまわったりやりたい放題。のみならず、ナイフをちらつかせながら乗客を次々とからかっていく。この2人、地下鉄に乗る前に既に暴力沙汰を起こして通行人から8ドルを奪う。8ドル・・・

「なんだテメエら、もうヤッたのかあ?」
「ニガー、臭うんだよ、ニガーはよお」
「やっぱりこいつオカマ野郎だぜ!」

2人の暴虐を誰も咎めない。次第に乗客たちはお互いのパートナーに不信を抱き、勝手にいがみ合う。それを見てギャングは歓喜する。ドアはギャングの1人がブロックしていて降りたくても降りられない。拷問のサブウェイは深夜のニューヨークの街を突き進む。

最後にようやく軍人の一人がギャングを制圧し、駅で警官を呼ぶ。なだれ込んできた警官は間違って黒人の男を羽交い絞めにする。

解放と同時に、最初から最後まで眠り続けていた酔っ払いが床に転げ落ちて映画は終わる。

地下鉄車両という閉鎖空間に社会の有り様を凝縮し、不条理として描いている「ある戦慄」。観客の心に深く深く爪痕を刻む傑作である。